大学職員からヨガ講師へ。「思考優先」を手放した先で聞こえた、自分の本当の声 〜RYT200修了生インタビュー 私がヨガを伝える理由〜
ヨガに精通した熱意のある講師陣、そして年齢も性別もバックボーンも全く違う仲間たちと共に過ごす6カ月。マタンギヨガのRYT200指導者養成講座には、ここでしか得られない学びや気づき、そして修了後の未来があります。
現在ヨガの世界で活躍する修了生へのインタビュー企画第一弾は、京都校1期生の田尻香予さんです。16年間、大学職員として活躍されていた香予さん。しかしご自身の身に起こった大きな出来事を機に、生き方や考え方が変わっていきました。その変化にヨガがどう関わっていたのでしょう。お話をうかがいました。

あなたはなぜ、ヨガを伝えるのですか
ヨガは本来の自分自身に帰っていくための道しるべだと思っています。あらゆる人々が、自分の本当の声を聞き、地球上で限りある時間を豊かに生きることができたら素敵ですし、私もそう生きていきたい。だから私はヨガを伝えるのだと思います。
田尻香予
文化人類学に没頭した学生時代、そして多様性を探求し大学職員へ。

まず香予さん自身のことを教えてください。学生時代に遡ると、大学院で文化人類学を学び、修士を取得されていますね。当時は、どんなテーマを研究していたのですか?

はい、大学では文化人類学を専攻し、アイデンティティやジェンダー、セクシュアリティ、多様性といったテーマに関心を寄せていました。
特に力を入れたのが三重県の離島でのフィールドワークです。島の民俗史の記録を試みていました。この島には、かつて性労働(セックスワーク)を生業として地域を支えてきた歴史があります。しかし時代の変化に伴い、その存在は次第に隠されるべきものへと変わっていきました。フィールドワークを通じて、現地の人々の実生活や歴史の受け止め方に迫る調査を行っていました。

なぜそのテーマに関心を持っていたのでしょうか。

当時は日本社会での生きづらさを強く感じていたからだと思います。「女性らしさ」や「男性らしさ」といった社会的概念はどこから生まれ、私たちはなぜそれを内面化するのか。 島の歴史や背景を知ることは、その問いに対する答えを見つけ、自身の生きづらさを乗り越えるヒントを得るための研究でした。

自分の生き方にも深く関わる研究を続けていたのですね。卒業後は大学職員への道に進まれていますが、その選択の理由を教えてください。

文化人類学は、多様な文化や生き方に眼差しを向ける学問です。セクシュアリティの研究では、自分自身を見つめ直す貴重なきっかけを得ることができました。ジェンダーとセクシュアリティの研究は、かなり突き詰めたと思っています。そこで、就職は、文化人類学の別のテーマであるダイバーシティやインクルーシブの視点で考え、大学職員として国際的な業務に携わる道を選びました。国際業務や大型プロジェクトの立ち上げなど多くの挑戦ができ、常に楽しみながら真剣に仕事に向き合えた貴重な時間でした。

学生時代は、文化人類学を徹底的に突き詰め、
研究をし続けたと語る香予さん。
その学ぶ姿勢は、ヨガとの向き合い方にもつながっている。
乳がんを機に向き合い始めたヨガ。学び舎は「理念」への共感で選んだ

大学職員として16年間勤められていたのですね。とても忙しかったと思いますが、ヨガにはいつ出会ったのでしょう。

ヨガに出会ったのは就職した頃です。激務をこなし、夜8時のレッスンに走って滑り込むような生活でした。体は疲れていましたが、ヨガが終わるとスッキリするし、体も楽になる感覚があるので、続けていました。

そこから、本格的にRYT200(指導者養成講座)の資格を取ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

一人目の出産の半年後に、乳がんの告知を受けました。仕事と子育てを頑張る日常が当たり前のように続くと思っていましたが、その告知を受けたときに「人生ってめちゃくちゃ儚い、あっという間に終わるかもしれない」と痛烈に感じました。
しかしその後も治療、子育て、仕事を並行して続け、まずは病気をする前の日常に戻そうとする時期が続きました。そしてようやく治療が落ち着いた頃に、2人目を授かりました。病気のこともあるし高齢出産でもあったので「このタイミングで生き方を見直さないといけない」と改めて感じたのです。
ヨガと真剣に向き合い始めたのもその頃です。乳がんと診断された後の身体活動が予後と関連し、適度な運動がQOLにもよい影響を与えることが報告されていると知りました。さらに、乳がんの治療中や治療後の不安に対して、ヨガを選択肢の一つとして勧めるガイドラインがあることも知り、「ヨガは自分にとって絶対必要なものだ。ヨガと一緒に生きていく道を選びたい」と強く思ったのです。レッスンに通うだけでなく、指導者資格を取得するレベルで真剣に学びたいと思いました。

仕事が忙しくて、ヨガとの距離を一定に保つことができなかった。
大病を経て、改めてヨガとの距離を見直した。

心身のケアのために真剣に向き合おうと決められたのですね。数あるスクールの中で、どのような視点で学びの場を選ばれたのでしょうか。

最初は、オンライン講義中心のスクールに注目していました。子供が二人いるので、あまり負荷のかからないプログラムが良いと思っていたので。
でも夫に相談したところ「小さな子供を育てているから短期間で終わらせないといけないとか、オンラインが良いと思わず、本当にやりたいことができるプログラムを探したらいいよ。」と言ってくれました。
そこで、条件を絞らずに自分が「ここで学びたい」と思うスクールを探す視点に変わり、徹底的に情報収集しました。その中で出会ったのがマタンギヨガのホームページです。コンセプトも理念もしっかり書かれていて、どの文章にも共感できました。

具体的に、コンセプトのどんなところに共感しましたか。

私は、文化人類学で学んだ、多様な文化や生き方を尊重する視点を大切にしています。マタンギヨガが掲げる『ヨガはあらゆる人に開かれている』という理念に、その考え方との重なりを感じました。また女性だけでなく、男性にも開かれている点にも共感しました。さらにホームページに書かれている10C(マタンギヨガスクールが大切にしている10のこと)を読んで感銘を受けたし、主宰のSachiko先生のメッセージやご経歴、他の講師の方々のプロフィールなどからも信頼できるスクールであることがわかりました。
そして最終的に「誰から学びたいか」と考えた時に「マタンギヨガのSachiko先生に教わりたい」と感じたことが決め手になりました。


受講を決めるにあたって気になることはありませんでしたか。

何点か気になったことは、Sachiko先生に電話で伺いました。補講や、修了してからもスクールとのつながりが保てるのかなど。欠席することもあるだろうし、マタンギヨガの本拠地は滋賀なので、京都スクールだと修了後に縁が切れてしまうのではないかという不安もあったので。でも、補講も受けられるし、修了後もスクールとのつながりを持ち、学びを深められることがわかったので、安心して申し込みを決めました。

RYT200の講座が開始して、まずどんなことを感じましたか。

多くの人はエクササイズの側面からヨガに馴染むと思いますが、ヨガには哲学や瞑想、呼吸法などもあり、ライフスタイル全般に関わるものだということを知りました。
そしてマタンギヨガはアライメントヨガという流派なので、カリキュラムの中で解剖学や生理学が網羅されています。レッスンを受けるだけでは知り得なかった世界がどんどん広がって、とてもワクワクしました。
同期の年齢の幅が広かったのも良かったです。20代から60代までのメンバーが11人。それぞれのバックボーンもさまざまでした。ヨガに触れたことがない人もいれば、資格が取れたらすぐ教えられそうな人もいて。でも、講座は全員に優しく合わせて進んでいったので、それぞれの価値観やレベルで学びを深める姿がありました。関心を持つ分野もさまざまで、メンバーとコミュニケーションをとることも楽しみの一つでした。

京都スクールが開講されている妙心寺塔頭長慶院にて。写真は初回の様子。
まずはSachiko先生のインストラクションで体を動かし、アライメントヨガを体験。

講師のTae先生からプランクのティーチング指導を受けている香予さん。
さらに襲いかかった大きな試練。ヨガの学びが、つらい日々を支えてくれた

解剖学や哲学など、学びの密度も濃く骨太なカリキュラムですよね。半年間の受講期間の中で、苦労されたことや大変だった場面はありましたか?

はい、大きな出来事がありました。プログラムの序盤に、乳がんの再発転移の疑いを告げられたのです。乳がんの告知を受けた時よりも大きなショックを受けました。家族や仕事のことも頭をよぎりましたが、真っ先に「せっかく始まった講座を諦めなきゃいけないのかな」と感じたことを覚えています。それだけヨガと真剣に向き合おうとしていたのです。
毎回講座の始めにある「サットサンガ※」という自分の状態をシェアする時間で、ボロボロ泣いてしまって。家では幼い子供たちの前で気を張っていた分、自分だけの学びの場所で気持ちがあふれ出てしまったのでしょう。
検査結果を待つ不安な日々は、家でひたすら太陽礼拝のティーチングを繰り返し、検査を聞く瞬間も、講座で教わった呼吸法に集中しました。ヨガの動きや呼吸が、不安でパンパンだった頭を静かに落ち着かせてくれたのです。ヨガは健康を維持するだけでなく、自分のキャパシティや想像を超える不安やストレスに陥った時に、そばで支えてくれるものだと実感した出来事でした。
結局、その後さまざまな検査や経過観察をし続けた結果、再発転移の疑いは晴れました。本当に不思議な出来事だったと今でも思います。

講師や同期のメンバーとのコミュニケーションも、講座の楽しみの一つ。

受講中の半年間で、大きな試練と気づきがあったのですね。講座を修了された後、16年勤められた大学職員を退職されていますが、その決断にも受講中の学びが影響していたのでしょうか。

受講を決めた時点ではインストラクターになることはあまり考えていませんでした。けれど、半年間の講座を受ける中で、徐々にヨガを伝えたい気持ちが芽生えていったんです。
さらに修了後、呼吸法の指導者養成講座を受けたことも大きなきっかけになりました。講座の冒頭で「何を得たいか」を問われた時、私は「思考と感情のバランスを取りたい」と答えました。組織で長く働く中で、他者からの期待や課題解決を優先することが当たり前になり、自分が何を感じているかさえ分からなくなっていたんです。多くのことは思考で乗り越えられると思っていましたが、病気などの想定外な出来事を経て、生き方を変える必要性を痛感していました。
呼吸法の講座の中では、メンタルブロックを外すような伝統的な準備のエクササイズもあります。講座で学んだ呼吸法に継続的に取り組んでいたことが助けになり、思考優位だった自分の考え方の癖から徐々に解放されていきました。これまで他人の期待に応えることにエネルギーを使ってきましたが、その有限なエネルギーを自分を整えるために使い、他人というコントロールできないものはリスペクトして受け止める。そう思えるようになると、自分が感じていることを無視できなくなり、限られた時間とエネルギーの使い方を見直したい、働き方を変えたいという思いが強くなりました。そうした思いから、大学を退職することを決めました。
ヨガ講師として、誰もが「自分に帰る」ための場をつくりたい

香予さんが活動の拠点としている「安養寺」にて。
心地の良い風が通り抜けるこの場所で、香予さんのセッションを受けることができる

体のために始めた学びが、生き方や働き方そのものを変えていったのですね。そうした香予さん自身の葛藤や実体験が、現在のセッションや活動のベースになっているのでしょうか。

そうかもしれません。どんな人でも、役割に翻弄されて自分の感覚が分からなくなっていると「この生き方ではどうすることもできない」という限界点に来るタイミングがあると思います。そういう人たちがじっくり自分に向き合える静かな時間や場所を作りたいのです。自分が経験したこと、葛藤したことが誰かの役に立つように、継続的なプログラムやワークショップを展開していく予定です。

大学職員時代は「対・組織や多数」に向けたお仕事でしたが、現在は「目の前のひとり」と深く向き合うお仕事へと変化されましたよね。届ける対象や関わり方が変わったことで、どのような思いを感じていますか?

多数に向けた仕事だから問題があったわけではありません。今までのキャリアも、それぞれの局面で真剣に向き合ってきたので、そこで培ったものもいつか誰かの役に立つといいなと思っています。ただ、1日中デスクワークをしている時間が誰のためになっているのかという疑問は持っていましたし、またその疑問を感じにくくなっていたという課題意識もありました。
一方、ヨガを伝える現場は目の前に人がいます。対面でヨガをお伝えすると「日常が潤い出した」と喜んでもらえて、私自身が本当に幸せな気持ちになります。そして、何度もレッスンに来てくださった方から「自分を大切にすることができた」と言っていただけると、本当にヨガをやっていて良かったなと思います。
でもそれが、自分の力だとも思っていません。場所やコミュニティの力、何よりヨガや呼吸法が持つ力を、私はただ伝えているだけなのです。

香予さんのレッスン、受けてみたくなりました。

ありがとうございます。ヨガが大好きな人に伝えるのはもちろん、ヨガがまだ届いていない方々に対しても届けたいと思っています。マタンギヨガのコンセプトにもあるように、ヨガはあらゆる人のためのものですから、「自分はヨガには縁遠いな」と感じている人にこそお伝えしたいですし、その道を模索しています。

このインタビュー企画では、皆さんに聞いている共通の質問があります。香予さんが『ヨガを伝える理由』は何ですか?

ヨガや伝統的な呼吸法は本来の自分自身に戻っていく、帰っていくための灯台の光のような道しるべだと思っています。それぞれの人たちが、自分の本当の声を聞いて、地球上で限りある時間を豊かに生きることができたらいいなと思うんです。私もそう生きていきたいですし。だからヨガを伝えるのだと思います。

学生時代の研究から現在の活動に至るまで、一貫して『本来の自分に帰る』探求を続けられてきたように感じます。そうした選択を重ねてきた今、改めてどんな気持ちですか?

とても生きやすくなりました。組織で働くという安定感がなくなったことやヨガの講師として試行錯誤している感覚は生々しくありますが、今の選択をしたことを後悔していませんし、これで良いと思って生きられているのはありがたいことです。

素敵なお話をありがとうございました。現在は、主にここ『安養寺』さんを拠点に活動しているのでしょうか。

はい、今は、BreathBeing(ブレスビーイング)として、京都市今出川にある萬祥山・安養寺を拠点に、呼吸法を軸にしたヨガのレッスンを行っています。ここは、約750年の歴史ある静かでとても素敵なお寺です。ヨガが初めての方にも、気負わずに参加していただけたら嬉しいです。

その他にも、京都市北大路にある北文化会館で、乳がん経験者の方を対象としたクラスも開催しています。最近では、医療機関からの紹介で来てくださる方も増えていますし、ご興味のある方にはぜひ気軽に参加いただけたらと思っています。

これからも、ご自身の学びを深めながら、たくさんの方々へヨガを届けていってくださいね。ご活躍を楽しみにしています。

